腹膜透析は、慢性腎不全患者さんの生活の質を大きく向上させる重要な治療法です。日本では主に3つのメーカー(ヴァンティブ、テルモ、JMS)が腹膜透析製品を提供しています。本記事では、これら3社の最新製品やサービスを比較し、患者さんやご家族が最適な選択をするためのポイントをご紹介します。
各メーカーの概要と特徴(2025年5月最新情報)
Vantive(ヴァンティブ) ※旧Baxter(バクスター)
- 2024年5月1日にバクスター株式会社から「株式会社ヴァンティブ」に社名変更
- 2025年2月3日、米バクスター・インターナショナル・インクの腎臓ケア事業が独立企業として正式に設立完了
- 「人生に寄り添い、希望の未来へ」をミッションに掲げるグローバル企業へ
- 世界100カ国以上で日々100万人を超える患者さんに関わる大規模な医療機器メーカー
- 特徴:国際的な知名度、豊富な実績、先進的なリモートモニタリングシステム
- 「おうち透析」プロジェクトを推進し、腹膜透析の認知度向上に注力
テルモ
- 1980年から腹膜透析システムの開発に着手
- 国内市場での高いシェア
- 2025年4月に新しい腹膜透析管理アプリケーション「テルモPDマイケア」をリリース
- 特徴:日本企業としての信頼性、使いやすさを重視した製品開発、デジタル化の推進
JMS(ジェイ・エム・エス)
- 2025年4月1日、帝人ファーマとの合弁会社「JMS帝人ホームメディカルケア」を設立し、腹膜透析関連事業を強化
- 安定した品質の製品提供
- 国内の医療環境に適した製品開発
- 特徴:きめ細かいサポート、日本の医療ニーズに合わせた製品
製品比較

1. デバイスを用いた接続方法
ヴァンティブ
- 「つなぐ」:自動接続システム
- 自動化された簡単操作:回路にキャップをつけたまま器材をセットするだけで自動接続
- UV(紫外線)照射機能:接続部を自動で殺菌
- 音声ガイドと液晶ガイド:操作をわかりやすくサポート
- コンパクト設計:持ち運びに便利
- 安全機能:クローズドシステムによる感染リスク低減
テルモ
- 「むきんイージー」:無菌接合装置
- 自動化された簡単操作:チューブをセットしてカバーを閉じるだけ
- 音声ガイド機能:操作手順を分かりやすく案内
- 軽量・コンパクト設計:持ち運びしやすい
- 急速充電機能
- 加熱溶融加圧接合方式採用
JMS
- ツインバッグシステム:簡便な操作
- 独自の接続システムでスムーズな操作
2. マニュアル接続システム
テルモ
- 「カチットタイプ」システム
- トランスファーチューブに接続完了音(カチッ)
- 保護キャップに翼状の持ち手(ウイングタイプ)
- 「クリックセーフ」として展開
- 特徴:接続時の持ちやすさ、接続完了の分かりやすさ、菌汚染リスク低減
- 高齢者でも簡単で安全に操作可能
JMS
- 「ZERO SYSTEM」
- 手動式で電源不要:災害時や停電時にも使用可能
- クローズドシステム採用で感染リスク低減
- フェイルセーフ構造による安全性向上
- クリック感で接続完了確認可能
- 切り離し時に流路を自動閉鎖
- 補助器具「テデタン」:軽量(850g)で簡単操作
マニュアル接続システムの利点
- テルモの「カチットタイプ」やJMSの「ZERO SYSTEM」など、マニュアル接続システムは電源不要で災害時にも使用可能で、これら2社のマニュアル接続は安全機構が備わっているので、安心感をもって接続することが可能です。
- 高齢者や手先の不自由な方にも使いやすい設計になっています。
3. APD機器
ヴァンティブ
- ホームAPDシステム「ゆめ」
- 世界100カ国以上で使用される高信頼性
- 24時間サポート体制
- 少液量モード搭載で幅広い患者に対応
- 非落差式注排液システムで寝具を選ばない
- ホームAPDシステム「ゆめ」は、小児患者にも使用可能です。
- 「かぐや」
- 高い視認性と操作性に配慮したタッチパネル
- アニメーションと音声ガイダンスによる操作サポート
- バーコードによる透析液識別機能
- 治療結果データの自動記録
- 注意:小児(20kg未満)では現在使用できません
- 排液はタンクにたまるため、定期的な掃除が必要
テルモ
- APDシステム「マイホームぴこ」
- 大きな液晶画面と音声ガイドで簡単操作
- 静音性に優れ、夜間使用に適している
- 小容量対応機能で小児患者にも配慮
- 排液はタンクにたまるため、定期的な掃除が必要
- 2024年から「テルモPDマイケア」と連携可能
JMS
- APDシステム「PD-MINISOLA」
- 小型軽量で操作が簡単
- 目の不自由な方にも使用しやすいよう、開始・停止スイッチに点字を追加
- バッグ加温部に傾斜をつけて、透析液を流れやすく改良
- 排液は排液バッグにたまるため、タンクの掃除が不要
APDの排液処理の違い
- ヴァンティブとテルモのAPD機器は排液がタンクにたまるため、定期的な掃除が必要です
- JMSのAPD機器は排液が排液バッグにたまるため、タンクの掃除が不要で、この点で維持管理の手間が少なくなります
4. リモートモニタリング(2025年最新情報)
ヴァンティブ
- シェアソースシステム:遠隔モニタリング可能
- MyPDアプリ:治療データをリアルタイムで医療者と共有
テルモ
- 「テルモPDマイケア」(2025年4月リリース)
- スマートフォン等からクラウドに記録
- データのトレンドをグラフで分かりやすく表示
- 家族とも情報を共有可能
- 専用通信モジュールとBluetooth/NFCを使って、「マイホームぴこ」や体重計・血圧計などからデータを簡単に取り込み可能
- 医療従事者向け「テルモPDマイケア for Hospital」を通じて医療者もリアルタイムにデータ確認が可能
JMS
- 専用医療機器プログラム「Relaxaリンク」利用によって、治療結果の送信や、医師からの治療条件の変更が可能
- APD装置用の記録媒体(SDカード)を利用した治療記録やメニュー変更が可能
- プリンタ内蔵:印刷された治療結果をノートに貼り付けるだけでOK(医療機関や主治医の判断によっては、ノートへの記録が必要な場合もあります)
サポート体制
3社とも24時間対応のサポート体制を整えています。
夜中に何かあっても24時間対応のサポート体制があるため、安心して腹膜透析を行うことができます。
小児腹膜透析における重要ポイント
小児患者の場合、以下の点が特に重要です:
- 家族の負担軽減:使いやすさとサポート体制の充実
- 感染予防:接続システムや無菌操作に優れた製品
各メーカーは、これらのニーズに応える製品やサービスを提供しています。
注意点
腹膜透析メーカーの選択に関して、以下の点に注意が必要です:
病院によって選択できるメーカーが異なる
- 全ての病院で3社の製品が使用可能というわけではありません
デジタル技術の進化
- テルモの「テルモPDマイケア」、ヴァンティブの「シェアソース」、JMSの「Relaxaリンク」などデジタル管理システムが充実してきており、治療管理がより便利になっています
- JMSのAPDは治療結果が紙に印刷され、リアルな紙で治療結果を把握できるメリットもあります。
これらの点を考慮し、主治医の先生や看護師と相談しながら、自分に最適な選択をすることが重要です。
まとめ
腹膜透析メーカー3社(ヴァンティブ、テルモ、JMS)の2025年最新情報を比較しました。選び方のポイントは以下の通りです:
- 使いやすさ:操作の簡便さ、メンテナンスの簡便さ、画面の見やすさ、音声ガイドの有無
- 安全性:感染予防機能、自動化システム、マニュアル接続システムの特徴
- モニタリング:リモートモニタリング機能、データ共有の容易さ(2025年は特にデジタル管理が進化)
- 災害時対応:電源不要のシステムの有無
2025年は特に、デジタル技術を活用したリモートモニタリングシステムに大きな変化がありました。腹膜透析治療の選択肢を広げることは、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。主治医の先生や看護師さんと相談しながら、自分に最適な選択をすることが重要です。各メーカーの最新情報や詳細については、直接メーカーや医療機関にお問い合わせください。腹膜透析技術は日々進歩しており、今後も新しい製品や機能が追加される可能性があります。
前年(2024年版)の情報はこちらをご覧ください。
【2024年版】腹膜透析メーカー3社比較!選び方のポイントを解説
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